現在、世界の人口の半数以上が都市部に暮らし、2050年には地球上の全人類の3分の2が大都会に生活することになるでしょう。これまでの農業のやり方では、このような巨大都市に健全で栄養豊富な食料を供給することは不可能です。そこで、私たちが考える1つのソリューションが都市農業(植物工場)、トマトやメロンなどの作物を大都会の真ん中で育てるという方法です。しかし、これらの作物には肥料と、そして何よりも水と光が必要です。農業における従来の光ソリューションに比べ、LED(発光ダイオード)の省エネ効果は格段に優れています。そのため、LEDは世界中の都市部での野菜や果物栽培を成功させる突破口となりえます。
「土地の希少性はますます高まるでしょう。ですから、私たちは『垂直(縦方向)』に考え始めなければならないのです」
ビルの中の広いフロアでは、見渡す限りレタスの球の長い列が整然と並び、ピンク色の照明を浴びています。一見するとSF小説の一場面のようなこの光景は、世界中の多くの都市ですでに現実のものとなっています。アジアや米国、欧州では、この都市農業(植物工場)と呼ばれる方法で野菜、ハーブ、果物が都市に溶け込んで栽培されています。都市部の家庭菜園が現代風にアレンジされたこの農業は、古い産業ビルや倉庫などに場所を移して行われています。
LEDは、赤色光あるいは青色光をより多く含む光を供給できます。これらの光は、アイスバーグレタス、トマト、バジルなどの植物が光合成と最適な成長に必要な波長と完全に一致しています。ダイオードが発する光はこれらの色成分を融合して、ピンク色の光景を生み出すのです。その他にも利点はあります。例えば、LED光を使用すれば、近代農業はもはや自然光に依存する必要がなくなります。雨でも夜中でも、天候にかかわらず確実に、発光ダイオードが生み出す不変の光によって植物はより速く、より豊かに成長します。
限りある農耕地に頼らず、食料供給を十分に行うには、別の次元を利用するという方法があります。農業は都市部だけでなく、空も目指して移動しているのです。「土地の希少性はますます高まるでしょう。ですから、私たちは『垂直(縦方向)』に考え始めなければならないのです」と、この「垂直農法」について先見的な考えを持つ、コロンビア大学のDickson Despommier博士は述べています。この都市農業形態では、果物や野菜が「高層農園」と呼ばれる多層階建てのビルで栽培されます。このような屋内型の農園は完全に日光が入らないこともあります。しかし、ビル内の複数階分のフロアを使って1年を通じてベストな条件下で育てられるトマトやほうれん草、あるいはその他の農作物は十分な収穫量を上げます。
このコンセプトは極めて有望です。垂直農法は、特に顕著な人口増加が見られるインドのムンバイや中国の上海などの世界的な大都市で暮らす人々への栄養供給に役立ちます。このような垂直型のグリーンハウスの収穫量は、従来の農業のハウス栽培より格段に増加します。Despommier博士によると、1ヘクタールの高層農園は、その10倍の面積の露地栽培地に相当します。500m²の面積があれば、毎年50トンのレタスやその他の野菜を生産する一方で、希少な都会のスペースを有効に活用することも可能です。
新たなコンセプトの都市農業(植物工場)にはさまざまな利点があり、その情報はすでに世界に向けて発信されています。その結果、近年かなりの数の屋内型農場が世界中の大都市でつくられています。その先駆者の中でも、日本は持続可能なエネルギーソリューションに国を挙げて取り組んでいます。そのため、省エネ性の高い都市農業(植物工場)は、拡大を続ける大都会へより多くの食料を供給するための新たな手段となっているのです。「日本において、省エネは最重要課題です。発光ダイオードなどの最新の光技術が日本でスピーディに高い成功を収めているのは、そういった理由があるからでしょう」と、インフィニオンライティングICマーケティング部門のUlrich vom Bauerは述べています。「この技術は特に、グリーンハウスの照明として、栽培用照明といわれる装置に応用されています。日本での需要は驚くほど増加しています。」
都市農業はまた、長距離輸送やそれに関連する環境へのマイナス影響を取り除くことによって、環境保全にも役立っています。米国では、レタスの98%がカリフォルニア州とアリゾナ州で栽培されています。この農作物をニューヨーク市の消費者に届けるには、トラックまたは貨物列車で4,200キロもの距離を移動し、その間中ずっと貴重なエネルギーを消費し続けなければなりません。 さらに、輸送費は野菜の販売価格に大きな影響を与えるため、都市農業というコンセプトは農作物の生産コストを低下できる可能性もあります。
これまで、垂直農法で生産された果物や野菜は、厳選された商品を扱うごく少数のスーパーマーケットでしか入手できませんでした。しかし現在、多数の栽培プロジェクトが動き出し、野菜畑や果樹園が都市部を目指しています。また、最新のインフィニオンのLED技術が、インドからメキシコに至るまで巨大都市の農場の照明手段として重要な役割を担っています。
Wondernica Research社もまた、省エネ性の高い照明システムのメリットを認識しています。このマレーシア企業は、グリーンハウス用の最新型LED管にLEDドライバICのインフィニオン ICL8201を使用しています。この利点は、光のソリューションでは必要な外部部品がわずかしかないため、設計コンセプトに容易に組み込むことができることです。これらは定格DCを青色あるいは赤色LEDと赤外線LEDに供給し、栽培する植物のニーズに適合させます。これもまた、LEDドライバ用のインフィニオン製品がグリーンハウスのすべての照明の節電に貢献し、同時に照明システムの信頼性を向上させた事例となるでしょう。
LEDドライバIC インフィニオンICL8201が、植物の種類に応じて、定格DCを青色または赤色LEDと赤外線LEDに供給―グリーンハウス照明の省エネの例
LEDは省エネ効果が大きいことが利点ですが、最大の効果はそれをはるかにしのぐものです。植物は、その種類と成長段階に応じてさまざまな種類の光の波長を必要とします。果物やつる性トマトなどの栽培に主に必要なのは、自然光の大部分を構成し、光合成を促進する青色光です。LED技術をベースにした最新の照明システムでは、植物の種類ごとに必要な波長を厳密に設定できるため、それぞれに適正な光スペクトルを与えることが可能です。
またこの最新技術を使うことで、都市農園(植物工場)の照明の強度も柔軟かつ容易に調整できます。つまり、植物は自らの成長に必要不可欠な日光を浴びるために、茎を伸ばす必要がなくなります。植物はエネルギーのすべてを実を結ぶことに注げるため、露地栽培された同種の植物よりも高い生産量を上げることが可能になるのです。発光ダイオードのさまざまな波長は、植物自身に特定の色素を作り出させることも可能です。例えば、ロロロッサレタスの赤い葉は北欧では大変人気がありますが、秋と冬にはほとんど見かけられません。LEDを利用することで、この種のレタスを消費地で生産できるため、はるか遠くの温暖なイタリアの地から輸入する必要はなくなります。
植物栽培における従来の光ソリューションと比べ、最新のLED照明システムは都市農業(植物工場)によく適しています。またこれらは省エネ性 という点からも優れています。LEDを利用して植物に光を当てた場合、そのエネルギーは主に植物自身によって消費されます。現在グリーンハウスで広く使われているネオンランプをLEDに置き換えた場合、将来は最大70%の省エネが実現できる可能性があります。また、LEDは従来の光源に比べ、熱の発生が少ないという特長を持ちます。熱によって栽培空間の温度が上がり、オーバーヒートすることがありますが、LEDは垂直な各階層に配置された栽培地への利用にも適しています。また、LEDは従来の照明と同等の明るさがありながら、寿命がずっと長期化しています。
大都市の垂直農法は、太陽の光を信頼性の高いLED光に置き換えますが、それだけではありません。土や雨も、LED光の導入によって必要なくなります。水耕栽培あるいはアクアポニックスは、都市部のグリーンハウスに水分と養分を確実に供給します。ミネラルとその他の重要な必須元素を溶かした水溶液を張り巡らせた長いホースからバジル、レタス、ズッキーニなどの植物の根元に直接届けるのです。
更新:2016年11月