プラグインハイブリッド車は、内燃エンジンと電動モータを搭載した自動車です。他のハイブリッド車とは違い、バッテリーの充電に使われるのはブレーキ操作時や惰行時の回生だけではありません。必要に応じて、充電ステーションや電源コンセントから充電することもできるため、「プラグイン」ハイブリッドと呼ばれます。プラグインハイブリッド車のバッテリーは他のハイブリッド車より大きいため、電気のみを使用して走行できる距離が長くなります。多くは最長50キロ、中には最長65キロ走行できる車種もあります。
ハイブリッド車は、未来への足がかりです。モビリティ(移動手段)を可能な限りカーボンニュートラルにするため、自動車産業ではエレクトロモビリティへの転換が進んでいます。しかし、純電気自動車に関しては、まだ多くの課題が残っています。ハイブリッド技術は、電動モータと従来の内燃エンジンという2種類の駆動システムのそれぞれの利点を組み合わせた技術です。
気候変動、排出量の増加:気候変動に関する政府間パネルの調査によると、全世界のCO2排出量の24%を交通機関が占めています。そのためモビリティは、遠い将来ではなく、できるだけ早くカーボンニュートラルにならなければなりません。それにはガソリンやディーゼルエンジンへの依存度を下げて、化石燃料から脱却することが必要で、ますます電動ドライブシステムに置き換えられています。
しかし、純電気自動車は多くの点で従来型の自動車に追いつけていません。航続距離が短く、バッテリーが高額なため自動車の価格も高くなり、多くの地域では充電ステーション網が十分に整備されていません。そこで解決策となりうるのが、ハイブリッド車です。電気駆動システムと内燃エンジンを組み合わせたハイブリッド車は、純電気自動車より走行できる距離が長く、内燃エンジンだけで走る車よりもガソリンやディーゼルの消費量が少ないのです。
また、欧州連合(EU)などでは乗用車に関する規制がますます厳しくなっていますが、ハイブリッド車はそうした規制に対応できる可能性もあります。EUでは、2021年から新車自動車の平均CO2排出量目標が1キロメートル当たり95グラムとなり、2030年までに、これをさらに37.5%削減することを目指しています。他の多くの国々でも、厳しい制限が定められています。
「ハイブリッド」という言葉はギリシャ語が語源で、「二つの源を持つ」という意味です。つまり、ハイブリッド車は二つの異なる動力源からエネルギーを得るため、二つ以上の駆動システムが搭載されています。一般には電動モータと内燃エンジンで、エンジンの燃料はガソリンが普通ですが、ディーゼルの場合もあります。ハイブリッド駆動の目的は、両方の駆動システムのメリットを組み合わせ、デメリットを相殺することです。
この二つの駆動システムを統合すれば、許容できる範囲の追加購入価格で、燃料消費と排出ガスを低減し、長い航続距離、ダイナミックな走行性を実現できます。電動モータは、エンジンを補助するか、特に内燃エンジンでは効率が悪い場面でエンジンに代わって使用され、特定の状況では性能を向上させます。
こうした理由から、そして政府のさまざまな推進プログラムにより、ハイブリッド車の販売台数は増加しています。データサービスプロバイダーのJato Dynamic社によると、2019年にはEU全域で100万台以上のハイブリッド車が新規登録されていましたが、2020年にはすでに140万台以上になっています。これは、2019年に比べて147%の増加を意味します。
トヨタの「プリウス」は、世界初のシリーズ生産のハイブリッド車として1997年に発売されました。しかし、実はハイブリッド駆動システムにはもっと長い歴史があります。ガソリンと電気駆動を組み合わせた最初の自動車は、オーストリアの技術者フェルディナンド ポルシェが、ウイーンの高級コーチビルダー、ヤーコプ ローナー社のために設計した「ミクステ ハイブリッド」でした。16馬力のガソリンエンジンと蓄電池に充電する発電装置が連動し、車輪を駆動する仕組みでした。
ハイブリッド車の動力源は、化石燃料と電気エネルギーです。そのため、ハイブリッド車には、燃料タンクとバッテリーという少なくとも2つのエネルギー貯蔵システムと、電気モーターとIC (内燃) エンジンという少なくとも2つのエネルギー変換装置が搭載されています。また、2つの駆動システムの切り替えを行う電子制御装置や、バッテリーからの直流を交流に変換して電気モーターを制御するインバーターなども、ハイブリッド駆動システムの重要な構成要素です。
ハイブリッド駆動システムの構成部品
ハイブリッド車には数多くの構成部品がありますが、以下の部品は特に重要な役割を果たします。
ハイブリッド車のバッテリー充電方法
ハイブリッド車は通常、車の走行中に自ら発電してバッテリーを充電します。純電気駆動システムと同じように、ハイブリッド車の電動モータも発電装置として機能します。ブレーキ操作や惰行しているとき、言い換えれば車がパワーを使わずに動いているときに、運動エネルギーを電力に変換し直すのです。これが「回生」です。車がシリーズハイブリッド(下記参照)の場合、内燃エンジンは発電機としても機能し、エネルギーを発生させます。プラグインハイブリッド車の場合は、充電ステーションで電力供給が可能です。
ハイブリッド車の二つの駆動システムが動作する場合
ほとんどのハイブリッド車は、二つの駆動システムを自動的に切り替えるか、同時に稼働させることができます。これは実際の運転状況によって決まります。例えば、車が一定の速度で高速走行しているときは、電子制御装置が内燃モードに切り替えます。そのようなときは、内燃エンジンが特に効率的に働きます。
二つの駆動システムを同時に動かすのは、例えば坂道の走行時や追い越しの際に効果的な場合があります。このような状況では、短時間だけ出力を高める必要があるため、電動モータが内燃エンジンの出力を補います。
多くのハイブリッド車では、電動モータが車を自力走行させることもできます。この場合、燃料は全く消費されません。電動モータは低速でも効率が高いため、発進時や低速走行に特に適しています。
パラレルハイブリッド方式(下記参照)の自動車の典型的な運転状況は、次のようになります。発進時は、電動モータだけが作動しています。速度が上がってくると、内燃エンジンが作動します。高速道路では大抵、内燃エンジンが使われます。ドライバーがブレーキを踏んだり、車を惰行させたりすると、そのエネルギーが回収されてバッテリーに貯蔵されます。貯蔵された電力は、後に必要に応じて電動モータによって使われます。
ハイブリッド車の二つの駆動システムの連動の仕方は異なり、どちらの駆動タイプにどの程度重点を置くか、という点も違います。
ハイブリッド車は、種類によって電化レベルに違いがあります。ドイツ自動車連盟(ADAC)によれば、内燃エンジン車に比べて15~25%の燃料節約が可能で、プラグインハイブリッド車の場合はさらに節約できます。
マイクロハイブリッド車
マイクロハイブリッド車は、ブレーキ操作時のエネルギーを回生し、標準的な12Vのスターターバッテリーに蓄電する自動始動停止システムを搭載した自動車です。ただし、内燃エンジンのみで駆動するため、駆動の分類で、マイクロハイブリッドがハイブリッドの一種にあげられていない場合もよくあります。別の言い方をすれば、マイクロハイブリッド車は、内燃エンジン駆動システムと技術的に優れた駆動エレクトロニクスを搭載した自動車と言えます。燃料はあまり節約できません。
マイルドハイブリッド車
マイルドハイブリッド車(マイルドハイブリッド電気自動車:MHEV)は、マイクロハイブリッドとは異なり、駆動システムに電動モータを搭載しています。ただし、電動モータが単独で動作することはなく、例えば加速するときにエンジンの出力を高めるなど、内燃エンジンを補助する目的でのみ使用されます。また、マイルドハイブリッド車には、通常の12Vバッテリーに加えて48Vのバッテリーも搭載されています。マイクロハイブリッド車より電圧が高いため、ブレーキ操作時に回生できるエネルギー量も多くなります。モータを停止できる頻度が多く、時間も長いため、自動始動停止システムの効率も上がります。マイルドハイブリッド車は、従来型の内燃エンジン車より燃料消費量を最大15%節約できます。
フルハイブリッド車
フルハイブリッド車(フルハイブリッド電気自動車:FHEV)の場合、電動モータと内燃エンジンがインテリジェントに、そして柔軟に連動します。電気だけでの走行もできますが、普通は数キロの短距離走行の場合に限られます。マイルドハイブリッド車とは異なり、フルハイブリッド車には48Vバッテリーの追加ではなく、数百ボルトの高電圧トラクションバッテリーが搭載されています。電動モータの出力もマイルドハイブリッド車を上回ります。ドイツ連邦環境庁は、フルハイブリッド車は純内燃エンジン車と比べて20%の燃料節約が可能だとしています。
プラグインハイブリッド車(プラグインハイブリッド電気自動車:PHEV)は、フルハイブリッド車をさらに発展させた車です。他のハイブリッド車と一線を画すのは、エネルギー回生に加えて、充電ステーションや電源コンセントでもバッテリーを充電できることです。これが、「プラグイン」ハイブリッドと名付けられている理由です。
プラグインハイブリッド車は、フルハイブリッド車と同様に高電圧バッテリーを搭載していますが、そのサイズははるかに大きく、高効率になっています。たとえば、モデルによっては、純電気モードで最大100km (約62マイル) 以上の航続距離にもなります。
ハイブリッド車には、電化レベルの違いの他に、構造による違いもあります。近年、最も一般的なのはパラレルハイブリッド方式で、上述のマイルド、フル、プラグインハイブリッド車がこれに含まれます。シリーズハイブリッド方式を採用したモデルもあり、パラレルとシリーズの両方のコンセプトを組み合わせたパワースプリットハイブリッド方式もあります。
パラレルハイブリッド方式
このタイプの自動車には、電動モータと内燃エンジンの二つの駆動システムが搭載されています。どちらの駆動も車を前進させることができ、駆動車軸に接続されています。これらの駆動は必要に応じて作動するようになっており、電気のみでも、内燃エンジンのみでも、両方を組み合わせても走行できます。このタイプの駆動システムでは、電動モータと内燃エンジンの出力の合計が総出力となります。
シリーズハイブリッド方式
シリーズハイブリッド方式にも電動モータと内燃エンジンが搭載されていますが、駆動システムは一つしかありません。二つの動力源が直列に接続されており、一般に、内燃エンジンがバッテリーに送る電気を発電している間に、電動モータで走行します。二つの動力源は機械的には接続されていません。レンジエクステンダーもこのカテゴリーに含まれます。これは端的に言うと、バッテリーが空になったときに、次の充電ステーションに着くまでの間、内燃エンジンがバッテリーに充電する発電機としてのみ働く機能です。
パワースプリットハイブリッド方式
一台の自動車に、シリーズハイブリッドとパラレルハイブリッドを組み合わせることも可能です。パワースプリットまたはシリーズパラレルハイブリッドと呼ばれるこの方式では、ドライバーがどちらかの駆動システムを選択します。
内燃エンジンだけを搭載した車と比べると、ハイブリッド駆動システムや純電動モータには多くのメリットがあります。
ハイブリッド車には、内燃エンジン車や電気自動車と比べた場合、デメリットもいくつかあります。
発電、蓄電、電気の変換が行われるあらゆる分野がそうであるように、電気自動車やハイブリッド車の分野でも、マイクロエレクトロニクスが重要な役割を果たしています。センサーが様々なパラメータを測定し、マイクロコントローラがシステム内の特定の部分にいつ電流を流せばよいかなどを判断します。そして、パワー半導体デバイスがその判断を実行します。これらのエレクトロニクスがどの程度インテリジェントに、かつ効率的に機能するかは、航続距離やパフォーマンス、コスト、そしてプラグインハイブリッドと電気自動車の場合はバッテリー充電時間にも、大きく影響します。
インフィニオンは、電気自動車やハイブリッド車に特化した半導体の開発に早くから取り組んできました。現在、インフィニオンはエレクトロモビリティチップのリーディングプロバイダーとなっており、さらなる成長を目指しています。インフィニオンのバイスプレジデント兼オートモーティブ ハイパワー ゼネラル マネージャーであるステファン ジザラ (Stephan Zizala) は、「今世紀中には、世界中の新車の大半が準電気自動車または完全電気自動車になる時代が来るだろう」と述べています。それに伴い、インフィニオンは生産能力の増強に投資しています。たとえば、オーストリアのフィラッハにある工場です。オーストリアのフィラッハには、16億ユーロを投じて、ハイブリッド車や電気自動車、その他アプリケーション向けのパワーエレクトロニクスを生産する新工場が建設されています。
インフィニオンは、エレクトロニクス製品のさらなる高出力化と高効率化のための技術革新にも取り組んでいます。その一例は、SiC(シリコンカーバイド)などの新しい半導体素材の利用です。特定のアプリケーションにおいてSiCチップは、従来のシリコンチップより高い出力と高いエネルギー効率が実現できます。これによって、例えばプラグインハイブリッド車の充電時のエネルギー損失の削減や、電気自動車の航続距離の延伸が可能です。
プラグインハイブリッド車は、内燃エンジンと電動モータを搭載した自動車です。他のハイブリッド車とは違い、バッテリーの充電に使われるのはブレーキ操作時や惰行時の回生だけではありません。必要に応じて、充電ステーションや電源コンセントから充電することもできるため、「プラグイン」ハイブリッドと呼ばれます。プラグインハイブリッド車のバッテリーは他のハイブリッド車より大きいため、電気のみを使用して走行できる距離が長くなります。多くは最長50キロ、中には最長65キロ走行できる車種もあります。
マイルド、フル、プラグインのハイブリッド車のどれがドライバーに最も適しているかは、実際の状況によって異なります。プラグインハイブリッド車の場合、電気のみを使用して、より長い距離を走行できると考えていいでしょう。また、充電ステーションや電源コンセントでバッテリーを充電することもできます。これは他の種類のハイブリッド車ではできません。これらのハイブリッド車では、内燃エンジンの補助を受けて回生によって発電される電気のみが使われます。したがって、電気のみでは短い距離しか走行できません。それを別とすれば、電動モータが内燃エンジンの効率を高めるというメリットがあります。
すべてのハイブリッド車は、回生によって電気エネルギーを得ます。ブレーキ操作や惰行によって発生した運動エネルギーが完全には失われず、その一部が電気に変換されてバッテリーに貯蔵されます。これは従来の内燃エンジン車に比べて大きく有利な点です。また、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンの出力も、発電に利用できます。プラグインハイブリッド車の場合は、家庭や充電ステーションで充電することもできます。
ハイブリッド車では長距離を走行することもできます。ただし、ダブル駆動システムのメリットはそれほど顕著ではありません。発電が生じるのは、主にブレーキを頻繁に使用する都市部での走行時だからです。また、電動モータが特に内燃エンジンを補助するのは、車を始動するときです。一部のハイブリッド車は、低速走行時に電気だけで走行することもできます。一般にハイブリッド車は、電動モータも搭載しているため、内燃エンジンのみの車より燃料タンクが小さくなっています。したがって燃料容量が少ないため、長距離の航続が短くなることがあります。
種類によって異なりますが、ハイブリッド車は都市部などの短距離を電気だけで走行することができます。その場合、化石燃料は消費されません。ただし、ブレーキを頻繁に使わないと、あまり多くのエネルギーを回生できないため、内燃エンジンに切り替える必要が出てきます。短距離を主に走行するのであれば、充電ステーションで充電できる純電気自動車の方がより適しているかもしれません。長距離も走る必要がある場合は、プラグインハイブリッド車も選択肢の一つです。
最終更新:2021年7月