自動車業界ではすでにインダストリー4.0の確立が順調に進んでいます。Volkswagen社は「透明性のあるプロトタイプ」という興味深いアプローチに取り組んでいます。詳細はウェブサイト「plattform-i40 (プラットフォームi40)」の「Volkswagen: Gläserner Prototyp (フォルクスワーゲン: ガラスのプロトタイプ)」という記事に記載されています。Volkswagenは全社でRFID (RFタグ) テクノロジーを採用し、テスト車両のコンポーネントを迅速に検知しています。コンポーネントはサプライヤーの工場でRFIDチップがすでに取り付けられています。そのため、車両のテスト時にエンジニアはプロトタイプに組み込んだ部品を特定し、開発に必要な詳細情報を読み取ることが可能です。つまり、適切な情報が適切な場所で適切なタイミングで入手できます。
自動車業界におけるインダストリー4.0のもう1つの例としては、Porsche社とSchuler社が立ち上げたジョイントベンチャーが挙げられます。詳しくはROI社の記事「Indus-trie-4.0-Prämissen für die Smart Factory (スマート工場のためのインダストリー4.0の前提)」をご覧ください。ドイツの都市ハレ アン デア ザーレでは完全にデジタル化、自動化されたプレス工場が稼働しました。この工場は受注から量産体制の準備、ボディー パーツの生産まで、すべてデジタル化されています。ここでは「ペーパーワーク」が過去の遺物となっています。未来はクラウドベースで透明性が確保されています。持続可能性に関しても、このプレス工場は再生可能エネルギーを使用した低排出オペレーションを実現しています。
物流業界におけるインダストリー4.0
物流ではインダストリー4.0テクノロジーが輸送経路の最適化、正確で計画的な保管能力の利用に役立っています。エルベ川の水運もその一例です。Statista社の調査「Statistiken zum Hamburger Hafen (ハンブルグ港の統計)」によると、ハンブルグ港の海運貨物取扱量は2021年で約1億2,900万トンでした。2030年には倍増する見込みです。ところが、港にはそれだけの量を扱うスペースがありません。ハンブルグ港湾管理委員会はコンテナの運搬速度を向上させる必要に迫られました。そこで、インダストリー4.0プロジェクトを立ち上げ、ヒト、トラック、コンテナ、船舶、クレーン、トラフィック制御システムをインテリジェントに接続し、課題の解決に挑戦しました。これらは通信し、コンテナ運搬速度に関連するデータをリアルタイムで提供します。その結果、トラックは目的地点にこれまでよりも早く到着し、運転手は荷下ろしの場所をすばやく把握することができるようになりました。船長は前もって経路を計画できるようになりました。オペレーションがシンプルになった結果、ハンブルグ港は急ピッチで荷さばきできるようになったのです。この事例の詳細はMedia Economics Instituteのウェブサイトの記事「Fallstudie zur Digitalen Transformation – Smart Port Logistics (デジタル化事例: スマート港湾物流)」で紹介されています。
ウェブサイト「Forschung und Wissen (研究と知識)」に掲載されているケルン経済研究所の調査「Digitalisierung schafft mehr Arbeitsplätze, als sie vernichtet (デジタル化による雇用創出は雇用損失よりも大きい)」でも、仕事とビジネスのプロセスのデジタル化で生まれる雇用は失われる雇用よりも大きく、前途有望であるとしています。とはいえ、調査によると、今後雇用の需要が増えるのは特にITやデータ分析、メンテナンスの分野における複雑な仕事です。一方、主に単純なルーチン作業で占められる仕事の需要は減少が見込まれており、それについてはプラスの面もあります。重い箱を運搬する日々の作業をロボットに任せれば、人間の労働者は自分の健康を維持できるだけでなく、より難易度の高い作業に時間を割けるからです。作業や市場の状況によって程度の差こそあれ、現在人間の手で行われている仕事の多くが消失することは確かです。同時に、新しいスキルとビジネスモデルから、今はまだ存在しない新しい仕事が発生するでしょう。たとえば、持続可能性の分野においても、自然エネルギー、環境に優しい建物、スマート シティに役立つ、新しいスキルを持つ人材が求められるようになります。今後も、中心的な役割を果たすのは人間です。そして、インダストリー4.0は長期的な雇用保障の環境を生み出してくれるのです。
メーカーの目には、インダストリー4.0の今後はどのように映っているのでしょうか?その答えはさまざまですが、見解はクリアです。Bitkom社のプレス リリース「10 Jahre Industrie 4.0 – was noch zu tun ist (インダストリー4.0の10年: まだやるべきことがある)」によると、95%がインダストリー4.0をビジネス チャンスとして見ています。デジタル化のためのエコシステムと新しいテクノロジーの実装は産業用アプリケーションだけでなく、気候、エネルギー、モビリティなどの分野でもすでに重要な役割を担っています。ところが、ドイツ経済の中心を担う製造業では企業の2/3が「後れを取っている」または「主流から外れている」と回答しており、時代に乗り遅れているという雰囲気が漂っています。必要な資金源だけでなく、データ保護とITセキュリティの要件も課題となっています。インフィニオンのCEOのJochen Hanebeckはドイツはよい立場にあると考えています。「基本的にドイツと欧州はインダストリー4.0に向けて非常に有利な立場にあります。私たちはバリューチェーン全体を持っており、最高水準の非常に複雑な製品を確実に生産することができます。要するに、私たちはものづくりに長けているということです」。