紀元前4,000年から3,000年になると、馬車が新たな空間モビリティとして登場しました。二輪の馬車が徐々に四輪の馬車やその他の交通手段に進化し、普及していきました。
生活環境の向上と自由、自立の実現。モビリティは単にAからBへの移動を可能にするだけではありません。モビリティは私たち自身と同じくらい多様性に富み、人類が登場して以来ずっと持ち続けてきた基本的なニーズです。この記事ではモビリティの形態、数千年にわたる進化の過程、さまざまな領域における未来の空間モビリティの実現に向けたインフィニオンの取り組みを紹介します。
モビリティとは、物理的、精神的な移動であり、そこには現実的な可能性と理論的な可能性が含まれています。現実的には、車などで目的地まで実際に移動することを意味します。理論的には、その距離を自動車で移動するのに必要な物理的、精神的条件を満たしている状態を指します。
一般的に、モビリティと移動は同じ意味で使われることが多いですが、決定的な違いもあります。移動はモビリティを実現するために必要な多くの条件の1つに過ぎません。ほかには、自動車などの交通手段や道路などのインフラが挙げられます。モビリティとは、こうした条件によってもたらされる柔軟性を意味します。
物理的、精神的な移動の可能性を細かく見ていくと、職場モビリティ、住宅モビリティ、交通モビリティなど日常生活で、さまざまな形態のモビリティに分類されます。それらは通常、相互依存の関係にあります。ここでは3つの主要形態を紹介し、特に空間モビリティについて考えていきます。
1.ソーシャル モビリティ
ソーシャル モビリティの例としては職や人間関係の変化が挙げられます。ソーシャル モビリティは改善されることもあれば、悪化することも、変わらないこともあります。
2.メンタル モビリティ
ある問題に対して独創的な解決策を見つけたり、さまざまな状況にすばやく順応したりすることがあります。メンタル モビリティはそういった頭の中における行為です。自発的に次の休暇について考えたり、アクティビティを計画したり、といった行為もメンタル モビリティに含まれます。
3.空間モビリティ
空間モビリティは地理的モビリティとも呼ばれ、人間の基本的な欲求の1つです。ベッドからトイレへの移動のように、私たちは皆、日常生活において、ある場所から他の場所へ移動したいという欲求を持っています。空間モビリティには意思を伴って動く、また、AからBに移動するといったあらゆる可能性を含みます。
一例として、自宅から職場のようなA地点からB地点への移動を考えてみましょう。住居や職場の立地、インフラ、さらには財政状況などの個人的な要因により、空間モビリティの可能性は一人一人異なりますが、いずれも1つのゴールに到達するという共通点を持っています。そして、それは効率的に達成する必要があります。
モビリティは、人類の基本的なニーズのひとつです。日常生活では誰もが到達したいゴールがあります。そのために、一人一人が持っている潜在能力を使ってモビリティを実現します。自分自身の力で移動したり、電気自動車やeバイク シェアリングを使ったりするなど、その可能性や能力は人それぞれです。自身の潜在能力が限られていたり、それらを持ち合わせていない場合はゴールに到達できず、日常生活で不便な思いをすることになります。その結果、不満や依存、社会生活の減少につながります。モビリティ レベルの高さは恩恵をもたらすと同時に、大半の社会活動への参加条件にもなっています。そのためのインフラは、政治、科学、産業によって世界的に推進、拡大されています。結局、日常における判断はすべて、モビリティの問題でもあり、そこから大きな可能性が広がるのです。
空間モビリティの根源は個々の身体能力です。数千年の歴史の中で、私たちは馬などの動物に荷物を運ばせたり人を乗せたりすることで補完してきました。紀元前6000年から5000年には荷車や簡素なボートを使用するなど、技術的進化によって可能性は拡大の一途をたどりました。
紀元前4,000年から3,000年になると、馬車が新たな空間モビリティとして登場しました。二輪の馬車が徐々に四輪の馬車やその他の交通手段に進化し、普及していきました。
異文化間の交易路も徐々に発達しました。紀元前5世紀には中央アジアと東アジアの間にシルクロードが結ばれ、モビリティ能力を通じてさまざまな文化が行き交いました。同様に、2世紀にローマ帝国が築いた道路ネットワークと近代的な交通システムは複数の国に及びました。
15世紀には大きな節目を迎えました。それは羅針盤を使用した大規模な航海 (アメリカ大陸の発見) です。16世紀になると蒸気機関が使われるようになり、航海のスケールが広がりました。
19世紀、蒸気機関車の登場によって地方交通システムが一変し、自転車、オートバイ、自動車の発明から個人の移動手段が新しくなりました。1879年には世界初の電気機関車がベルリンで導入されました。蒸気機関車が登場して約100年経過し、日常的に使う鉄道が電気を動力とする機関車に移行しました。
20世紀に入ると、日常生活における空間モビリティの重要性が高まりました。自動車や旅客機などの大量輸送手段がさらに発展し、交通インフラが拡大したことにより、モビリティの新たな可能性が次々と生まれ、ビジネス用途や必要に迫られた状況で使われるだけでなく、個人の楽しみや旅行などにも利用されるようになりました。
21世紀の最初の四半世紀は、人口と社会の変化、都市化、デジタル化とデータ、新しいテクノロジー、気候変動問題に特徴づけられます。これらの特徴は次の四半世紀にも受け継がれるでしょう。そして持続可能でスマートなモビリティは、個人と社会にさらなる機会を生み出すでしょう。しかし、個人の要求と社会の要求を調和させることが一層重要になります。特に空間モビリティではその傾向が顕著になるでしょう。つまり、交通量が増えると騒音レベル、排気ガス、資源消費量も増加します。質の高い生活を実現しつつ、サステナブルに生活するには、モビリティという概念を包括的にとらえる必要があるのです。都市部と地方のモビリティを再設計し、生まれ変わらせることは世界のどの国においても力を注ぐべきテーマになっています。
未来のモビリティには習慣と思考パターンにおける歩み寄りと変化が求められ、それは政治や社会でも同様であることは明らかです。このプロセスでは、快適さ、時間、インフラ、費用、個人の意志などの要素が重要な意味を持ち、移動手段を選択する決め手になります。同時に、スマート モビリティの観点からテクノロジー、データ、デジタル サービスを進化させることが、この概念の進化に必要な構成要素としてますます重要になるでしょう。デジタル化は以前から大きな潮流となっており、今後もプライベートと仕事の世界を変えていきます。空間モビリティも例外ではないでしょう。データをオープンに処理し、情報をインテリジェントかつリアルタイムに共有することで、ルート探索の精度が向上し、移動手段の選択が効率的になります。これが進んでいくと、コネクテッドカーや自動運転車は、モビリティ革命の中で重要な位置を占めることになるでしょう。同様に、脱炭素化はこの変化を確実にするものであり、デジタル化と密接に関連しています。電気自動車のようなゼロエミッション車は習慣を変え、シェアリングというコンセプトや公共交通機関とともに進化していくのです。
エネルギー革命と再生可能エネルギーの拡大が、排出量ゼロの電力の発電に中心的な役割を担います。インフィニオンは、効率的で環境にやさしい電力を生成するパワー半導体により、風力発電や太陽光電力システムのコンポーネントにおいて、長年リーダーシップを発揮してきました。また、車載業界では効率的なソリューションでソート リーダーとして定評があります。エレクトロモビリティ向けの車載半導体/システム ソリューションの提供により、気候変動問題に対応したカーボンフリーの未来に向けたソリューションをサポートしています。エネルギー効率や自動運転、安全性とコネクティビティのためのスマート テクノロジーの詳細については、「乗用車」のトピック ページをご覧ください。
明確に言えることは、低排出/排出ゼロの輸送とデジタルの可能性が合わさることで、サステナブルなソリューションが生まれるということです。電気自動車、ハイブリッド車、あるいは燃料電池車などがこれにあたります。水素モビリティが持つ可能性やインフィニオンの取り組みなど、水素に関する詳細は「水素 - エネルギー転換の推進力?」をご覧ください。
持続可能なモビリティという概念は、社会の民間セクターと経済セクターの両方に恩恵をもたらします。しかし、個人にとって決め手になるのはその人の受容性と経験です。目的地まで行くのに一番快適な方法や、その所要時間、持続可能性、費用 (払うだけの価値があるか) などを各自が考えることになります。
エレクトロモビリティは大きなトレンドの1つになっています。静かで効率的なバッテリ駆動の電気自動車の登場により、私たちの移動方法はすでに変化しています。特に乗用車では、内燃機関の自動車に代わって環境にやさしい交通手段となりつつあり、公共の充電ステーションの継続的な増加にも後押しされています。また、自家用の電気自動車は充電ステーションに頼らず、自宅で充電することもできます。一部のモデルは蓄電ユニットを備えており、必要に応じて電力網に売電することも可能です。モデルによっては、電動のみの航続距離 (WLTP) が充電1回につき700km以上のものもあり、航続距離は増加傾向にあります。
エレクトロモビリティは、CO2ニュートラルな輸送を実現する、未来への重要な架け橋です。エレクトロモビリティに関して、詳しくは「今知っておきたい、エレクトロモビリティについて」をご覧ください。他の選択肢として、ハイブリッド車が挙げられます。ハイブリッド車は電気駆動と従来の内燃エンジンの長所を併せ持っています。短距離では電気駆動の長所を、長距離ではエンジンによる長い航続距離を活かすことができます。詳しくは「ハイブリッド車: 今、知っておきたいこと」をご覧ください。
インフィニオンのテクノロジー/半導体ソリューションは自家用、公共、商用のあらゆる種類のモビリティに欠かせない構成要素になっています。例えば、バッテリの電力を効率的に運動エネルギーに変換します。効率的に変換すると、航続距離を伸ばすことができます。また、バッテリ用充電システムのインフラはインフィニオンのソリューションによって支えられており、充電スピードも向上しています。結局のところ、再生可能エネルギーによる電力だけでなく、シームレスな充電も非常に重要なのです。この点で、パワー エレクトロニクスのパイオニアであり、マーケット リーダーでもあるインフィニオンがどのように貢献しているかは、「充電インフラ」の ページでご覧いただけます。
マイクロモビリティ分野ではeスクーターとeバイクが普及しており、商用車セクターにおける電動のバス、トラック、配送車と同様です。短距離用の移動手段は騒音や大気汚染を減らすなど、多くの可能性があります。ケータリング企業にとっては、より柔軟で利用しやすく、より迅速で経済的なデリバリー サービスを実現することができます。私たちのテクノロジーがどのようにエネルギー効率を向上させ、マイクロモビリティの開発を支えているかについては、「マイクロモビリティ」のページで詳しくご紹介しています。
ドイツ連邦交通デジタルインフラ省は、「環境対応商用車に関する包括的構想」の中で、クライメート ニュートラルな物流を積極的に推進しています。2030年を目処に、大型貨物輸送の走行距離の1/3を電気駆動または水素などの電気ベースの燃料 (e燃料) にすることを目標に掲げています。インフィニオンのパワー半導体は、電力供給のエネルギー効率向上によって電気ベースのクライメート ニュートラルな水素生成をサポートしています。EUの気候と輸送ポリシーにおける2030年までの目標では、商用車における電動モビリティの形態も重要な役割を担っています。「貨物輸送」のページでは、商用車が排出量ゼロで走行できるようにするためのテクノロジーを紹介しています。
クライメート ニュートラルとは別に、自動運転とエレクトロモビリティの組み合わせは、長期的に重要な役割を果たすに違いありません。貨物輸送のエネルギー効率は向上し、よりサステナブルになるでしょう。これを実現する方法のひとつが、リアルタイム ナビゲーションをはじめとする最適化プランニングです。このように、モビリティは「シームレス サービス」、つまり継ぎ目のないコミュニケーションとサービスの提供になります。とはいえ、公共交通機関においては、セキュリティや規制が依然として課題となっています。港湾ターミナル、倉庫、空港などでは、すでに自動モビリティのコンセプトが適用されているのとは対照的です。
ローカル トラフィックと長距離トラフィック |
最近、電動のコネクテッド ビークルが大きな潜在能力を発揮しつつあるセクターがあります。それは公共交通機関です。未来のサービスや輸送のトリップ、公共交通、ゴミの収集、荷物の運搬は電動になるでしょう。物流分野では、交通手段の進歩により、モビリティのスピードと予測可能性が向上します。その結果、サプライ チェーンだけでなく、業界の生産プロセスも恩恵を受けます。電動商用車とその分野におけるインフィニオンの寄与について、詳しくは「電動商用車の機会とメリット」をご覧ください。
鉄道物流 |
鉄道を利用した貨物輸送は、気候変動に配慮した物流の中心的存在です。トラックなどの商用車と比較して、CO2排出量が大幅に少ないため、より優れた輸送手段として位置づけられています。鉄道の走行に必要なエネルギーは非常に少なく、貨物列車1本で最大52台のトラックを代替することができます。その結果、道路を走るトラックの数が減り、交通渋滞が減るというメリットもあります。さらに、バッテリ式や燃料電池式の列車は、クライメート ニュートラルな貨物輸送の可能性を大きく広げます。
電動船舶と電動航空機 |
インフィニオンは電動船舶と電動航空機という2つの分野でも技術開発と世界のネットワーク化を推進しています。効率的なパワー半導体、限界まで極めた軽量バッテリ、そして省エネルギー技術により、将来に備えた旅客/物流向けソリューションを実現しています。「なぜ将来の船舶は電動化されるのでしょうか」と「電動航空機およびドローン: – 電気による飛行」には今後の展望と参考情報が紹介されています。
サステナビリティへの貢献 |
気候変動対策の2050年までの目標を定めたパリ協定では、商用車と物流における包括的なモビリティ変革が中心的な要素の1つになっています。サステナビリティにおけるインフィニオンの取り組みと、より良い環境に向けた企業としてのコミットメントについて、詳しくは「インフィニオンにおけるサステナビリティ」をご覧ください。
社会的責任を果たし、環境にもやさしく、安価でさまざまな年代にとって魅力的でなくてはならない――マルチモーダルという特徴を持つ都市モビリティは複雑な課題を抱えています。その文脈でよく話題に上るのがスマート シティです。これは最新の通信/情報技術と革新的で持続可能な概念により、生活の質を高めようというものです。同時に、スマート シティからスマート モビリティも生まれます。交通システムのインテリジェントなネットワーク化の活用により、交通手段の時間効率もエネルギー効率も向上します。ここでキーワードになるのはMobility as a Service (MaaS) です。MaaSの一例として、eスクーターや自転車シェアリング、交通機関の予約、デジタル決済など、あらゆることに便利に対応できるアプリが挙げられます。インフィニオンがどのようにMaaSによる利便性の向上をサポートし、デジタル決済システムのセキュリティを確保しているかは、「Mobility as a Service」のトピックページをご覧ください。
現代では、移動手段を所有する必要はありません。スマートかつローカルな公共交通機関を便利に使うことも可能です。AからBへ移動する方法は、個人が決めます。交通手段の選択にはその人の生活状況だけでなく主観も反映されます。持続可能なモビリティを語る上で、公共交通機関は重要な要素の1つです。インフィニオンの「公共交通」のページでは、インテリジェントな発券/決済システム、そしてエネルギー効率向上のための革新的な技術によって、どのようにこの問題に貢献しているかを紹介しています。
地方においても、都市の場合と同様にスマートなモビリティが必要とされています。しかし、地方のニーズは都市部と根本的に異なります。地方では通勤、通学、日常買い物での移動距離が長い傾向にあります。世界的に都市化が進む一方で、地方におけるモビリティ需要は依然として高く、そういったニーズは再検討しなくてはなりません。その際に大きな課題となるのが、自家用車の代替となる魅力的で安価な交通手段です。
特に自動シャトルバスが関心を集めています。公共交通機関の利用が少ない地域で、スマートフォンのアプリを使ってオンデマンドで利用でき、固定の時刻表は不要になります。2020年には、テネシー大学のAntora Mohsena Haque氏とCandace Brakewood氏が米国の自動シャトルバスの利用状況と現状に関する19のパイロット研究をまとめています。
自動運転
AからBまで、手動でハンドル操作することなく走行する-自動運転の可能性は、新しいモビリティ コンセプトを生み出します。たとえば、自動運転のタクシーやバスは、オンデマンドで利用できます。待ち時間が短縮され、駐車場探しが不要になるというメリットもあります。また、運転免許がなくても、子どもたちを安全に目的地まで送ることができます。
また、宅配業者にも、自動運転の配送ロボットを使って、小包や食品、介護用品や病院用品を届けられるというメリットがあります。特に「ラスト ワンマイル」と呼ばれる区間は、宅配業者にとって高コスト要因であり、自動運転のコンセプトによって最適化できるかもしれません。
鉄道輸送
鉄道輸送もエキサイティングな発展を遂げています。航空機に比べて環境面、効率、速度で勝り、現在の鉄道よりも安価な「ハイパーループ」の開発が進んでいます。ハイパーループは2013年に考案され、試験用線路が世界各地で建設中です。最高時速1,000 kmの高速電動輸送システムの実用化に向けて、研究が進められています。
航空輸送
未来の空の旅も魅力的です。2020年には初めての電動航空機が型式証明を取得しており、電動旅客機や水素エンジン旅客機の試作もすでに始まっています。海運においても船舶の代替推進システムの開発が進むなど、同様の傾向が見られます。
包括的かつ安全性の高い自動サービスを実現するには、さらなる技術の進歩と研究が必要です。インフィニオンはトップクラスの先進技術と効率的なパワー半導体、システム ソリューション、センサー/コネクティビティ ソリューションにより、世界のモビリティ開発を推進しています。
最終更新: 2022年12月