スマートビルディング:将来のビル

「スマートビルディング」と呼ばれるインテリジェントなビルは、今後のエネルギー転換の重要な一部になります。では、スマートビルディングとはいったい何でしょうか? どんな特徴があるのでしょうか?

定義:スマートビルディングとは?

月曜日の朝8時45分。ある国際的なメディア企業に勤める会社員が、車で地下駐車場に入っていきます。駐車する場所を探す必要はありません。何故なら全ての駐車スペースにセンサーが設置されていて、スマートフォンのアプリを見れば、どこに空きスペースがあるかがわかるからです。社員たちが車を停めている間に、ビルに組み込まれたテクノロジーが、暖房や照明、エアコンをそれぞれの社員の好みに合わせて設定し、オフィスの準備を整えます。このようなことが可能なのは、このビルが「スマート」だから――つまり、インターネットに接続された未来のビルだからです。

スマートビルディングがエネルギー転換を後押しする

しかし、スマートビルディングは利便性が高いだけではありません。スマートビルディングは、利便性が高いだけでなく、エネルギー転換の一要素にもなります。EUでは、建物がエネルギー消費の40%、CO2排出の36%を占めています。しかし、ドイツ政府は、2050年までに既存の建物が必要とするエネルギーを80%削減することを目標としています。

スマートビルディングには、エネルギー効率が高いという特徴もあります。ビル内のセンサーが室内にいる人数を検知し、それに基づいて照明や暖房を自動的に調節します。また、保守費用を抑えることも可能です。エレベーターなどビル内のシステムにセンサーが設置され、部品の状態を検査、モニターします。摩損による差し迫った故障のリスクがある場合、担当技術者にメールが送信され、実際に故障したり高額な修理が必要になったりする前に保守作業を行うことができます。スマートビルディングのもう一つの大きな特徴は、安全性が高まることです。ビル内で火災が起きた場合、センサーが煙の広がりを検知し、スピーカーから高音量の明確なコンピュータ音声で、どの避難経路をとればいいかを指示します。

スマートホームとスマートビルディングはどう違うのか?

牛乳を自動的に注文するコネクテッドな冷蔵庫、太陽の位置に合わせて角度を調整するブラインド、メーターの度数を自動的に電力会社に送信する暖房装置など、住宅のデジタル化が今、急速に進んでいます。目指すのは、生活の質を高め、維持費を削減するスマートホームです。

このような個人の住宅とは異なり、「スマートビルディング」という用語は、オフィスビル、空港、ショッピングモールなどの非住居用ビルのインテリジェントなネットワーク化と自動化を表します。目指すところはスマートホームと同じで、利便性の向上とエネルギー消費量の削減です。ただし、セキュリティ上の必要条件については、スマートビルディングの方が複雑です。オフィスビルには何千をも超えるセンサーが接続されていることから、サイバー犯罪の攻撃対象領域も大幅に広くなります。したがって、高度なセキュリティソリューションが必要です。

スマートビルディングへの転換に必要な要素

ビルをスマート化するには、次の3つのステップが必要です。

  1. センサーを利用し、ビルの周辺エリアの情報を収集する
  2. コンピュータシステムでデータを分析し、対応策を導き出す
  3. アクチュエータが制御コマンドを実行する(自動的に窓を開ける、暖房を調節するなど)

このようなインテリジェントな自動化を実現するには、「デジタルツイン」が必要になります。ビルのデジタルツインは、ビル内の全ての機能とプロセスをマップ化してコンピュータモデルを構築し、制御できるようにします。インフィニオンのセンサーシリーズXENSIV™ はこの技術を支える主力製品で、以下のようなセンサーをラインアップしています。

  • 気圧センサー
  • 音響センサ―
  • 3Dイメージセンサー
  • レーダーセンサ―
  • 磁気センサー

これらのセンサーをコンピュータシステムと連動させることで、ビルはよりスマートになり、状況に適応できる(コンテキストアウェア)ようになります。ビルの周辺で起きていることを「見て、聞いて、理解」し、状況の変化に合わせて動作を調整することができます。

ヨーロッパの先駆的なスマートビルディングの実例:アムステルダムの「ジ・エッジ」とベルリンの「キューブ」

スマートビルディングのパイオニアの一つは、アムステルダムにある「ジ・エッジ」。全面ガラス張りのファサードが光を浴びて輝く、延べ面積4万平方メートルのオフィスビルです。ビル内には約2万8000個のセンサーが設置されており、湿度や明るさ、温度などのパラメータを計測し、状況に応じて調整を行います。部屋の空気がよどんだり、暑すぎたり寒すぎたりするようなことは、もうありません。職場は常に理想的な環境に保たれています。さらに、スマートビルディング技術のおかげで、ジ・エッジの電力消費量は従来のオフィスビルに比べて70%も削減されています。

職場環境についていえば、ここで働く社員は固定されたデスクを割り当てられてはいません。ビル内はオープンフロアで、社員は自分で仕事をする場所を選べます。空いている場所を探すには、スマートフォンアプリを使います。このアプリで、照明を好みに合わせて調節することもできます。PoE(Power over Ethernet)とも呼ばれるIPベースのLEDシステムに、6000個以上の照明が組み込まれています。

キューブ:ベルリンのスマートオフィスビル

ベルリン中央駅に隣接する「ザ キューブ」も、同様の機能を持つオフィスビルです。谷折りになったガラスのファサードが目を引く10階建てのビルで、同じように何千個ものセンサーやアクチュエータが設置されています。その中核部は「ブレーン」と呼ばれる制御センターで、人工知能(AI)がセンサーからのデータを分析し、オペレータにビルの運用効率を高めるための提案をします。午後4時以降、ビルの一部に社員が誰もいなくなったことをブレーンが検知すると、その領域の照明とエアコンのスイッチを切るように提案し、エネルギーの節約を図ります。

スマートビルディングのリスクとは?

しかしながら、スマートビルディングは利点をもたらすだけでなく、リスクも抱えています。サイバー攻撃を受けるリスクもその一つです。何千個ものデバイスがインターネットに接続されているため、いわゆる「攻撃ベクトル」が大幅に増えているのです。この攻撃ベクトルが攻撃者に利用され、ビルのITシステムに侵入されると、簡単にデータを操作されたり、ビルの機能を遮断されたりします。そのため、インフィニオンがスマートビルディング向けハードウェアを開発する際にセキュリティを強く重視しています。インフィニオンのハードウェアベースのセキュリティソリューションは、単純な認証チップから複雑な実装まで幅広く揃っています。

スマートビルディング:将来の展望

スマートビルディング市場が急速に拡大しています。市場調査会社のiot-analyticsによると、2021年には全世界で238億個のネットワーク機器が使用され、2020年 (216億個) に比べて10%増加するとのことです。

専門家は、最大の成長はビルディングオートメーション分野であると予想しています。2018年には全世界で2億3,000万台のデバイスがビルに接続されましたが、2022年には4億8,300万台になると言われています。共通の目的:仕事や生活をより便利にし、エネルギー効率を高めて気候変動に対応すること

 

更新:2021年7月